
10月9日、三嶺に徳島県名頃から日帰りで入山した香川県の13人が日没で下山できなくなり、山中で一泊して翌朝下りたというニュースは全国放送でも大きく取り上げられた。
再発防止の観点から、遭難はできるだけ正確な情報を集めて共有することが重要なのであるが、報道はあまりに断片的で的が外れているし、警察・消防も情報を発信するだけのものを持っていないのが実際のため、まともな情報がほとんど共有されず、それは今回も例外ではなかった。
そこで、再発防止の教訓にしていただくため、筆者が三好警察署、みよし広域連合西消防署祖谷分署、各報道、当事者から得ていた情報を総合し、今回の下山遅れの概要を紹介する。
なお、当事者2人とは直接コンタクトがとれ、当日の行動の詳細、GPSトラックログなどを提供していただいた。こられの資料は、今後の遭難防止のための活動の貴重な資料となるものであり、感謝したい。
香川県の会社の同僚11人(うち5~12歳の子ども4人)αグループと、別に入山した同県の夫婦βが三嶺から下山中にルートを外す中で遭遇し、合流して13人になりビバークして、翌朝自力下山したというのが全体像である。ほとんど報じられていないが、もう1人単独行の登山者が同様にルートを外し、グループは一時14人になっていたのであるが、この人物は独自に行動して9日中に下山している。以下細い点を述べる。
10月9日(日)名頃の駐車場・A地点(林道のゲートは閉鎖)からαが9時半、βが10時半に入山。平尾谷川から1517方面へ上る通常ルートから三嶺山頂に13時半頃到着した。
15時頃 αβともに前後して頂上小屋を出て下山開始。先行していたαは「上の登山口(D地点)」経由で林道から、βはピストンして平尾谷川に下山する予定だった。
15時30分頃 αがB地点から1544の尾根にルートミスして入ってしまう。トラックデータの記録ではこの時に付近をウロウロした形跡がみられるので、「あれ?」という状況にはなっている。しかし、尾根に入った後は「迷わず」に、一気に高低差300メートル以上を下っている。これはαが正しいルートであると信じ切って下っていることを示している。βも同様にルートを外しαに追いつくことになる。
16時40分 尾根の末端まで下り、標高1200メートル付近の四ツ小屋谷川に出合う。
17時 「沢を下っては行けない」との判断で若干登り返し、1250メートルあたりの枝沢付近の樹林帯でビバークすることを決め、消防に連絡する(C地点)。
αは1544の尾根を明瞭な踏み跡に引き込まれ、どんどん下っている。βは「おかしい」と思いながらも、引っ張られて後をついて行った。地図などで現在位置を確認することはしていない。βは1517方面に向かっているのではないかと思っていたとのこと。
ビバークを決め、消防に連絡を入れた時点では、αが持っていたGPS付きスマートフォンでC地点にいることをほぼ正確に把握していた。
この時に、危険のない地点でのビバークであり、現在位置も分かっているので、捜索しないよう消防には求めている。なお14人のうち1人は、ビバークをせず単独で四ツ小屋谷川沢を下り、その日のうちに下山している。
ビバークした13人にはヘッドランプ、LEDライトが各1個あり、登山用でないジャンパーやエマージェンシーシート、雨具などで寒さをしのいだ。気温が比較的高く、たき火を絶やさなかったので、寒さは大したことはなかったとのこと。携帯はAUだけ入った。夜間に降雨があったが、大木の下で寝ていたので濡れなかった。
10月10日(月)6時 明るくなり、αβのリーダー格2人がC地点から「上の登山口」(D地点)へとトラバースするルートを探しに出発。稜線まで登り返すのは子どももおり大変なので、トラバースして林道に出る判断をしている。
6時30分 「上の登山口」(D地点)に到着
7時15分 ビバーク地点(C地点)に戻り、全員で下山開始
8時45分 13人全員が「上の登山口」(D地点)に到着し、消防警察と合流
報道では「曲がるところをまっすぐ行ってしまい沢に入ってしまった」、「暗くなったので無理をせずビバークする判断をした」、「沢でたき火をして暖をとった」、「GPSを持参しており、およその位置を把握していて不安はなかった」、「近くに林道があることは分かっていた」などが当事者の言葉として伝えられている。
問題点ルートを外すことは誰にでもあることであるが、αは地形の概念をよく把握しておらず、βには一定のスキルがあったがαに引っ張られ、結局、誰も現在地を確認せぬままに下り続けたのが原因。道迷いというのは、得てしてそういうものであるのだが、鹿害でスズタケが消滅し、踏み跡がわかりにくくなっていることも大きいと思われる。
早めにビバークを決め、翌朝落ち着いて下山したのは、この状況下での事後の判断としては概ね適切であったといえる(結果的には四ツ小屋谷川沢を下れば良かったのかもしれないが)。
名頃から三嶺山頂までの高低差は約1000メ-トルあり、健脚でも片道3時間はほしいところ。10時半の入山では山頂が13時を過ぎるのは確実であり、まずもって入山が遅すぎる。
トラブルを起こすパーティは、例外なく入山時間が遅い。下山にも3時間かかるわけで、10月ともなれば日没は早く、16時には沢筋などは暗くなりはじめる。15時には下山している計画を組むべきだったが、αβとも頂上小屋を出たのが15時だった。
裏を返せば、時間さえ適切に計画していれば、少々ルートを外したとしても復帰は可能で、その日のうちに下山できたともいえる。
パーティの装備や服装は十分とはいえなかった。子どもの服装は綿のようだったが、この晩は比較的温かかったことが幸いした。降雨があったが、適切なビバーク地選定で消耗せずにすんでいる。
αは地図とGPS、βは地図とコンパス・高度計を持っており三嶺で過去にトレッキングのガイドをした経験もあったのことだが、国土地理院の地形図を持っていなかったため、等高線が分かりにくく、地形図の大切を実感したとβは述べている。
αのGPSはログ記録用であり、GPSの緯度経度から現在位置を把握したわけではなかった。αが持参していたスマートフォンにたまたま地図をあらかじめダウンロードしていたため、圏外であってもGPSが作動して、位置を把握することができたとのことであった。結果的には現在地を正確に把握し、さらに地形を読むスキルのあるメンバーがいたため、翌朝は難なく「上の登山口」(D地点)に出ている。
教訓 ①入山・下山時間に余裕を持たせた計画。
②地形の概念の把握、地形を読み取る力、読図力をつける。
③「あれ」と思ったら、必ず立ち止まり地図を見て、現在位置確認する。よく分からない時は登り返し、分かるところまで戻る。
④高度計、GPS、スマートフォンの活用。
⑤早めのビバーク判断,リーダーの役割の重要性。
※写真のトラックログはαの9日の動き。ビバーク地点で終了している。