三嶺の遭難について |
三嶺で日帰りで入山した香川県の13人が日没で下山できず、山中で一泊して翌朝下りたというニュースは全国放送でも大きく取り上げられたので、ご存じの方も多いと思うが、再発防止のための資料として各種報道と三好警察署、みよし広域連合西消防署祖谷分署などから入手した情報をまとめてみたい。
はじめに、自分としては今回問題を「事故」とはとらえておらず、「下山遅れ」であると認識している。登山では「下山遅れ」はつきもので、珍しいものではなく、日没時間切れとなり、ビバークして翌朝明るくなってから下りるというのは、コントロールされた、ある意味適切な判断である。
もし、今回のパーティがうちの山岳会で、まったく同じ状況であれば「今晩はビバークする」という連絡がついていれば、公的救助は要請しなかっただろうということを前置きしておく。
このパーティは香川県の会社の同僚11人(うち5~12歳の子どもが4人)と、別に入山した香川県の夫婦がルートを外している中で遭遇し、合流したもの。
10月9日(日)
入山は名頃の駐車場・A地点(林道のゲートは閉鎖)からで、三好警察署によると9時半と10時半。どちらが9時半でどちらが10時半なのかは不明。
どのルートで山頂に向かったかも聞けていないが、通常であれば平尾谷川沿いの林道をつめ、1544のピークに直登するルートをとるはず。
ただ下山予定は高度1300まできている林道を歩いて下ることにしていたということなので、ひょっとすると登りも林道経由の可能性もなくはないが、そこは不明。
14時半頃に三嶺山頂から下山を開始。
15時30分頃に道を外して迷い、2グループが合流。
17時 消防に下山できないという連絡が携帯電話からあり。沢でビバーク。
10月10日(月)
8時45分 林道終点・C地点に自力下山してきたところ捜索隊と出会う。
11人パーティと夫婦パーティがどちらもそう思っていたかのかは定かでないが、下山予定ルートは青線を下ってC地点から林道(地図では破線)を下る計画だったという。
当事者からは、「曲がるところをまっすぐ行ってしまい沢に入ってしまった」、「暗くなったので無理をせずビバークする判断をした」、「沢でたき火をして暖をとった」、「GPSを持参しており、およその位置を把握していて不安はなかった」、「すぐ下に林道があることは分かっていた」などの発言があるし、携帯電話が入感したことからも、B地点のところの屈曲点を見過ごし、沢に入ってしまったのか、あるいは1544付近から南面の沢・D地点のほうに入ったのかもしれない。ただD地点だと携帯電話が入るのだろうかという気はする。
最近は鹿害でスズタケが消滅し、踏み跡が非常にわかりにくくなっていることが、道を外した背景にあると思われる。
当事者の方はGPSを持っていたのであるから、トラックログを、今後の事故防止のためにも是非公開していただきたい(もしこのブログを関係者の方がご覧になりましたら、連絡いただけると幸いです)。
そして10日朝、ビーバク地点から沢から登り返して道に戻り、C地点に自力で下った(消防祖谷分署)わけであるが、「夜間は携帯電話の電池が消耗するのを防ぐために電源を切っていた」とのこと。
道を外すことは誰にでもあることで、沢に突っ込まず早めにビバークを決め、翌朝登り返したあたりは、なかなか落ち着いた判断で、全体に時間が遅すぎるというミスを除けば、事後の判断は概ね適切であったといえる。であるからこそ13人は無事に下りているわけで、下山後リーダー格の男性がインタビューに答える物腰も、きちんとしたものだった。
問題点
高低差は約1000メートルあり、健脚でも片道3時間はほしいところであるが、11人パーティが10時半に入山しているとすれば(人数が多いと時間が余計にかかる)、山頂は13時を超えるのは確実で、入山が遅すぎる。最低9時には入山する計画にしてほしかった。
トラブルを起こすパーティは、ほぼ例外なく入山時間が遅い。下山にも3時間程度はかかるわけで、10月ともなれば日没は早く、16時には谷はかなり暗くなる。15時頃には下りる計画を組むべきだった。
逆に言えば、時間さえ適切に組んでいれば、少々道に迷ってもルートに復帰することは、このような判断ができるパーティであれば、容易にできたはずで、その日のうちに下山できていただろう。
装備や服装は細かいことまでは分からないが、映像でみる限り一部山慣れた格好の人もいたが、子どもの服装などは綿のようだった。この晩は比較的温かかったことが幸いした。降雪、強風など天候が厳しければしんどい状況になっただろう。
GPSも紙の地図もあり、緯度経度と地図を照合するスキルもあったということなので、地形の概念の把握については一定の知識をリーダーが持っていたものと思われるが、防寒着やヘッドランプはどうだったのだろうか。
登山者のみなさんには、今回の事例を教訓に、ゆとりある時間設定、地図やGPS、携帯電話、日帰り登山でも万が一のビバークに備えた装備を必ず持つことをお願いします。
13人を無事発見…下山途中、道に迷う 徳島
毎日新聞 10月10日(月)10時24分配信
徳島県と高知県にまたがる三嶺(みうね)=標高1893メートル=を下山中に道に迷った登山客13人は、10日午前8時45分ごろ、捜索中の徳島県警三好署員や地元消防団に発見され、全員無事で下山した。
登山客は、子ども4人を含む香川県内の男女11人グループと同県内の夫婦1組。徳島県三好市東祖谷の国道439号沿いの駐車場から、約3キロ山中に入った地点で見つかった。
グループの男性によると、9日午後2時半ごろ山頂から下り始めたが、途中で山道から林道に向かおうとして迷ったという。山中で一晩過ごしたが、GPS(全地球測位システム)の端末でおおよその位置は分かっていたため「不安はなかった」と話した。【大原一城、阿部弘賢】
徳島・三嶺の山中で一夜/県人13人無事保護
四国新聞 2011/10/12 09:43
9日、徳島県と高知県の県境にある三嶺(1893メートル)で道に迷い下山できなくなっていた13人が10日午前8時45分ごろ、徳島県三好市東祖谷菅生の登山口駐車場から3キロほど入った林道で、徳島県警三好署などの捜索隊に保護された。グループには5~12歳の子ども4人もいたが、けが人はいない。
三好署によると、13人は、香川県綾川町の会社員村山勉さん(43)と同僚、家族の計11人と、宇多津町の会社員出尾宏二さん(52)夫婦。
村山さんらと出尾さん夫婦は9日午前、別々に入山。いずれも日帰りの予定だったが、午後になって下山し始めたところ、それぞれ道を間違えた。午後3時半ごろ、偶然出会い合流した。
日が暮れたため、その場にとどまり、たき火で暖をとり野宿。夜が明けてから、全員で来た道を引き返していて、捜索隊に発見された。
9日夕、みよし広域連合消防本部に通報があり、10日午前8時ごろから、署員や消防団員、市職員ら約20人のほか県の防災ヘリコプターも出動し、捜索していた。
村山さんは「紅葉に気を取られて道を間違えた。関係の方々にご迷惑をかけ、申し訳ありません」と謝罪した。
山中で一夜を過ごさざるを得なくなった一行を勇気づけたのは、村山さんが万一の備えに携帯していたGPS(衛星利用測位システム)端末。歩いた経路と現在位置が示される。
村山さんと出尾さんは端末のデータと地図を照合し現在地を把握。「明るくなって来た道を引き返せば、必ず登山口に出られる」と、いたずらに不安に駆られるようなこともなかったという。