クールな眼 |
このように、「山が動く」時には、共産党はあおりをくらってはじきとばされるというのは、89年参院選、消費税・リクルートで土井たか子社会党のマドンナ旋風の時に経験済みなのだが、その時と非常によく似ている。
確かあの時高知選挙区は、社会党は西岡瑠璃子さんで、自民党は谷川寛三だったけ?共産党は北岡照子さんか上岡辰夫さんだったような気がするけど、東京も内藤功氏が落ちて、共産党はメタメタだった。当選は当時社会党の西岡さん。あの時の社会党の熱気はすごかった。どこでも演説をしていると人がゾロゾロとイナゴのように増えた。あの時の高揚した雰囲気の記憶は今も鮮明である。
共産党はボロ負けして当然、ガックリきたわけだが、その時、宮本顕治議長の鶴の一声。細かくは忘れたが「自民党を倒す前向きの変化なのだから喜ぶべきだ。共産党の議席が減ったことだけに目を奪われて意気消沈するようなケツ穴のコマイことでどうする」みたいなニュアンスだった。当時まだ若かった自分は、「歴戦の闘士はやっぱ言うことが違うわ」といたく感心した。その後、西岡さんは細川内閣入りした社会党が小選挙区制に賛成したことから、法案に反対票を投じて造反し除名された(この時、西岡さんが青票を投じた姿をよく覚えている。感動した)。その後、西岡さんは山原さんを始め、共産党を支援してくれているのは周知のとおり。信念の人である。
今回の選挙だが、89年の西岡選挙の時とはまったく様相が違う。武内氏に1人区を制するようなもりあがりにはまったく欠けていた。投票率も高くない。この差はなんなのか。
つまり有権者は熱狂していない。クレバーに計算して、現政権にNOを言うための選択をクールにしたと言えるのではないだろうか。そして共産党は言ってることは正しいかもしれないが、選択肢には入らなかったということだろう。つまり正邪は投票の判断の基準ではなく、とりあえず自公に不信任を突きつけるツールとしてどこに投票するのが一番有効なのかということだったのである。
今回当選した武内氏は高知市職員労組出身で自治労役員。部落解放同盟の推薦を受ける。なんのことはない旧態依然とした組合型候補である。関西での同和問題の腐敗の噴出や社保庁自治労の機械的労働者論にも重大な責任がある「消えた年金」問題など、本来逆風を受けるべきポジションにいたのに、それが政権批判の受け皿の旗手として1人区で当選してしまうのであるから恐ろしい。メディアの誘導の怖さと、武内氏の強運をつくづく感じる。
今、高知の自治労関係者の中では、「よいよ、ホンマに通っちゅうぜよ。そんながやったら、俺が出ちょったらよかった」という声が渦巻いている。確かに今回は誰が出ても通ったわけだが、個人的には、どうせ国会議員にするなら武内氏などよりずっと適任と思われる人も自治労内部にもいる。
ただしこの「ブーム」は長続きはしないのではないか。有権者はクールな眼でじっと見ている。同じくNOという記号として多くの支持を得た東洋町現町長は、すでに町政に激しい内紛がおきて立ち往生しつつあるようだ。処分場の問題を脇に置いて、前町長と現時点でもう一度選挙をやったとしたら、文句なしに前職が勝つだろう。
追記 89年参院選の共産党は北岡さんだったというご指摘を受けましたので調べてみました。
西岡瑠璃子185613(43・6%)、林侑173191(40・7%)、北岡照子66353(15・7%)
括弧内は得票率。やはり今回とほぼ同様のよく似た得票動向でした。