2013年 08月 28日
NHKプロフェッショナル「宮崎駿1000日の記録」 |
NHKプロフェッショナル、宮崎駿特集を見ました。「風立ちぬ」の制作に密着した貴重なルポでした。
自分は「風立ちぬ」には、実在の堀越二郎と三菱内燃機を結果的に持ち上げていることに、かなり批判的なのですが、この番組では、制作にあたっての宮崎駿の人知れぬ苦労、悩み、逡巡、動揺などに理解が深まり有意義でした。
宮崎本人が結論を持たないまま、走りながら長い時間をかけてストーリーを書いているので、どんどん途中で揺れて変わっていく。本人の老いへの自覚、「残された時間がない」という焦りも伝わってきました。
それでも、自分には何故、堀越二郎と三菱を、堀辰雄の純愛文学で脚色して美談仕立てにしなければならないのかということは、やはりよくわからないままでした。
結局は、番組の中でも宮崎本人が言ってましたが、あっちこっち動揺したあげく、もう時間がない、あれこれ言い訳はしない、戦争の時代を懸命に生きた技術者へのオマージュと、メカと美少女のメロドラマを美しく描きたいからやった、文句あるか。ということに尽きるんじゃないですかね。
兵器を作った実在人物を葛藤なく描いているという批判に対しては、「今だって戦争前夜で放射能に汚染され堀越の時代と変わらない危機なのに、お前ら矛盾や葛藤してるのか?堀越ほどに懸命に生きているのか」というような視線も感じました。
このあたりが宮崎駿の本音だろうと思います。
でも、これは相当危うい。民衆を戦争にからめとっていく権力者側のストーリーと紙一重です。どこか、731部隊で「医学発展のため」懸命に研究していた医学者を彷彿とさせます。
後は作品を観客がどう評価するかでしょうね。宮崎本人も批判がわき起こるのは覚悟の上でしょう。どちらにしても、波紋を広げ議論を呼ぶのは作品の力です。もう少し時間がたったら、「風立ちぬ」、改めて観てみようかなと少し思いました。
追記 驚いたのは、ジブリには狭いスペースに大勢の女性を含むスタッフが所狭しと作業しているのですが、描いている時はもちろん、会議の時も宮崎・鈴木プロデューサーは、外に出るわけでもなく、なんのおかまいなしに、ずっとくわえ煙草でした。NHKのカメラの前でも。これに誰も文句を言わない、言えないんでしょうね。
あまりに昭和な光景ですが、他者の健康への配慮、社会的常識が欠如しているのは明らかで、鬼才故のエゴイストという彼の本質がよく分かりました。
作品中の喫煙シーンの多さ、結核患者の脇でプカプカ煙草を吸うことが批判されていて、擁護する人は「あの当時はそれが普通だった」と言っていますが、今でもジブリでは普通の光景でした。
喫煙者でなかった堀越に、作品であれほど煙草を吸わせる背景が、少し理解できました。
by tosahiro-k
| 2013-08-28 00:23
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